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鳥谷の残留の影に [阪神タイガース]

意外な決断だった。そう思ったのは、きっと私だけではあるまい。熱望していたメジャーリーグ挑戦を断念し、一転して阪神タイガースへの残留が決まった鳥谷敬内野手のことである。海外FA(フリーエージェント)権を行使し、昨年11月26日にはベストナイン表彰式の席上で「(阪神から)何を言われても気持ちが変わることはない」と公言していながらも、年またぎで悩みぬいた末に夢をあきらめた。
一部報道では獲得に強い興味を示していたトロント・ブルージェイズからメジャー契約の正式オファーが届いたとされていたが、実際のところは交渉こそしていたものの条件面で折り合いが付かず着地点が見えないまま難航していたようだ。残留要請を出していた阪神にとっては万々歳で、さぞかし虎党も朗報を聞いてビールがうまかったに違いない。

 阪神は鳥谷と5年20億円とも言われる超大型契約を締結する見込みで、破格の契約内容になるという。しかし、どうも腑(ふ)に落ちない。鳥谷が周囲に「日本より条件が悪くてもメジャーに行く」と口にしていたという話は今でも各方面から耳にする。裸一貫になって夢を追う姿勢を見せていたにも関わらず、条件面と古巣へのチーム愛だけで阪神残留を決めたとは考えにくい。

 その「?」の中で重要人物として浮上してくるのが、鳥谷と代理人契約を結んだスコット・ボラス氏である。

 多くの有名メジャーリーガーをクライアントに抱えている敏腕代理人だが、海の向こうで交渉相手の球団幹部たちから付けられている陰のニックネームは「バンパイア(吸血鬼)」。高額な契約を是が非でも勝ち取ろうとする強気な交渉術に相手球団から嫌悪感を抱かれるケースも少なくない。

 中でも特にブルージェイズはボラス氏と以前から決して良好な関係ではなく、それを象徴するように近年は同氏の顧客選手と1人も所属契約を結んでいなかった。つまり微妙な関係にあったブルージェイズとボラス氏が今オフ、鳥谷を巡って同じ交渉のテーブルに着いていたということになる。

●火に油を注ぐような出来事が発生

 両者の間で火がくすぶっていたところへ、さらに油を注ぐような出来事も発生していた。高騰の続く契約条件に歯止めをかけようと2008年から所属選手との契約を最長5年にリミットを設けているのが、ブルージェイズの基本方針。しかしこれをボラス氏が昨年12月のウインターミーティング(米カリフォルニア州・サンディエゴ)で報道陣に囲まれた際に「将来有望な選手との関係を絶とうとする蛮行である」などと批判したことで、ポール・ビーストン球団社長やアレックス・アンソポロスGMらブルージェイズ幹部の怒りを買ってしまったという。

 ちなみにブルージェイズが鳥谷側に打診していたのは、メジャーのスプリングトレーニング(春季キャンプ)に招待選手として参加するマイナー契約だったという情報もある。とはいえ、これが事実だったとしてもあながち低過ぎる評価とは言い切れない。これまで日本人内野手がメジャーリーグで抜きん出た実績を残せていないこともあって、いくら一昨年の第3回WBCから獲得に興味を示していた“虎の鉄人”鳥谷でも米球界では何の実績もない新規契約選手だけにブルージェイズとしては慎重にならざるを得ない背景もあったはずだ。

 日本のソフトバンクで活躍し、メジャー移籍後もシアトル・マリナーズ、そして自軍でユーティリティー・プレーヤーとしてチーム屈指の人気者となった川崎宗則内野手でさえもブルージェイズは今季のチーム残留を熱望しながらマイナー契約でのオファーを提示しようとしている。そういう今の状況を考えれば、鳥谷へ提示した条件は妥当な線だったと言えるかもしれない。

 だがそうは言っても、これをあのボラス氏があっさりと「OK」するわけがない。阪神から提示されている残留オファーとは天と地ほどに恐ろしいまでの開きがある。その額に少しでも近づけようと……いや、真剣に阪神以上の高額契約の条件を引き出そうとボラス氏は交渉を続けたものの、ただでさえ丁々発止の関係性であるブルージェイズ側との話し合いは困難を極め、シェイクハンドなど夢のまた夢の状況だったという。

●代理人の仕事

 アメリカン・リーグの某球団極東スカウトは、ボラス氏について次のように語った。

 「ボラス氏は代理人としてクライアントから年俸5%分の成功報酬を受け取る。当然、契約が高額になればなるほどもうけは大きい。同氏が条件交渉で1ドルでも上乗せしようと金額に固執するのは、そういう自らの利潤追求があるからとも言われている。

 そういうスタンスなのだから鳥谷に関してもボラス氏としては、一番条件のいいチームと合意してもらわなければ割に合わない。いくら鳥谷が『マイナー契約でもいい』と主張していたとしても、ブルージェイズへ移籍するデメリットを強調して阪神へ残ることを勧めていたはず。

 ボラス氏はとても優秀な代理人だが、金銭面にこだわらないメジャー移籍を目指していた鳥谷にとって果たして適正な人物であったかは大きな疑問が残るところだ」

 今オフ、ボラス氏と代理人契約を結んだ日本人選手は鳥谷だけではない。オークランド・アスレチックスからFAとなり、オリックスへ移籍した中島裕之内野手もそうだ。3年契約で最大12億円と見られる破格条件でサインを交わすことになったが、アスレチックスでの2シーズンが一度もメジャー昇格を果たせず不本意な結果に終わった中島にとっては最も高額だったオリックスのオファーよりも米球界残留で夢を追う選択肢のほうが第一希望であった。

 その強い気持ちがあったからこそボラス氏に「招待選手ででもスプリングトレーニングに参加できるオファーがあるなら、メジャー契約じゃなくてもいい」と懇願して望みを託したが、中島のもとに吉報は最後まで届かなかったという。

 「だが、この内情は第三者には誰にも分からない。本当はマイナー契約で打診があったとしてもサインさせたくないと思えば代理人サイドは、本人に知らせないことだってできるし、仮に本人へアナウンスしていたとしても『結局はまとまらなかった』と水面下で破棄することだってできる。

 断わっておくが、ボラス氏がそれをやったとは一言も言っていない。要は、そういうこともできる立場にあるということ。ただ実際にメジャー球団からオファーが一切なかったにしても、中島が選択したのはラブコールを送られていた国内複数球団の中で最も条件が高かったオリックスだったからね。結果として鳥谷のケースと同様、ボラス氏の実入りは一番高額だったというわけだ」(前出のスカウト)

●最高額の成功報酬が舞い込んできた

 そして奇妙なことに、ボラス氏が顧客に持つ中島と鳥谷の去就にはいずれも阪神がからんでいた点は見逃せない。

 鳥谷のメジャー挑戦表明を受けて今オフの阪神は正遊撃手の穴埋め補強として中島獲りに心血を注いで獲得が有力視されながらも、どういうわけか土壇場で大きく上回る提示額を用意したオリックスに引っくり返された。仮に阪神が中島獲得に成功していれば、鳥谷に高額な残留オファーを用意する必要もなくなっていたはずで、ボラス氏の“旨み”は低まっていたであろう。

 結論として1つ言えるのは、中島が阪神を蹴って最も条件の高いオリックスを選び、鳥谷も高額な年俸が保証される古巣残留を決断したことで、同氏には両者から最高額の成功報酬が舞い込んできたということだ。

 「ボラス氏は交渉球団である相手から高額な条件を引き出し、サインに至らせたのだから代理人としては最高の仕事を今回もこなしたと言える。しかしメジャーリーグでプレーすることを最も望んでいた鳥谷と中島が心の底から満足できる結果にならなかったのも、また事実だ」と代理人事情に精通するメジャー関係者は話した。

 「敏腕」と「剛腕」は紙一重――。ボラス氏によって鳥谷と中島は身を持って教え込まれたかもしれない。いずれにしても人もうらやむような破格の条件を手にしたのだから両選手はプロとして気持ちを切り替え、ファンの熱い期待にこたえるべくメジャーからも注目されるような大暴れを見せてほしいところだ。

Business Media より
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